相続放棄と入院費の支払い
1 被相続人と病院
相続は、人(自然人)が死亡することにより開始しますが、多くの方は何らかの病気により死亡しますので、死亡時に入院しているということも多くなります。
一般的な入院の場合は、入院する方が病院と入院契約を締結し、親族がその連帯保証人になるというのが通常です。
入院契約を締結すると、入院する方は、病院に対して入院費用を支払う義務を負い、その方が払えない、または払わない場合は、病院は、連帯保証人となっている親族に対し、契約で合意した範囲で入院費用を請求することになります(なお、法律的には、病院はいきなり連帯保証人に入院費の支払いを請求することも可能です)。
つまり、入院費は、借金等と同様に、入院する方が負う金銭債務(金銭を支払わなければならない債務)であり、その方が入院した後に死亡した場合は、入院費用を支払わなければならない義務は、「被相続人の財産に属した一切の権利義務」に該当し、相続人に承継されることになります。
なお、連帯保証人となっている親族は相続人であることが多いですが、その相続人は、相続により、主債務者としての支払義務を法定相続分の割合で承継し、かつ、連帯保証人として入院費全額(契約により義務の範囲が限定されている場合はその範囲の金額)を支払う義務を負います。
2 入院費の支払いを免れるためには
入院費も、その間に行われた手術や投薬の内容によっては、100万円を超える金額になることもあります。
仮に入院費用が250万円で、被相続人にはプラスの財産はほとんどなく、法定相続人が一人だった場合、入院費用を相続してしまうと、その法定相続人は自らの財産の中からその入院費用を支払わなければなりません。
そして、相続人に資産がなく収入も少なくて払えない場合は、自己破産を検討しなければなりません。
このような事態になるのを防ぐためには、家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う必要があります。
相続放棄を行えば、相続人とならなかったものとみなされますので、入院費用の支払義務を含むすべての権利義務を相続しないことになります。
3 連帯保証人になっていた場合
ただ、上記のケースで、その唯一の相続人が連帯保証人になっていた場合は、相続放棄をして被相続人の義務の承継を防いだとしても、連帯保証人としての義務を免れることはできません。
義務を免れるためには、自己破産等が必要になります。