生活保護を受給している方の相続放棄
1 生活保護受給者と相続
ある人(被相続人)が死亡して相続が発生し、生活保護を受給している方がその相続人となった場合、相続または相続放棄によって生活保護に影響を与えることがあります。
ここでは、相続または相続放棄が生活保護に与える影響についてご説明します。
2 相続したことによる影響
⑴ 生活保護法4条1項および2項は、次のように規定しています。
「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」(1項)
「民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。」(2項)
つまり、生活保護は、生活に困窮する方がその利用できる資産、能力その他のあらゆるものを最低限度の生活を維持するために活用し、扶養義務者から扶養を受けていても生活に困窮する場合に受給できるということになります。
⑵ 生活保護法26条は、「保護の実施機関は、被保護者が保護を必要としなくなったときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもつて、これを被保護者に通知しなければならない。」と規定しています。
臨時の収入により一時的に保護の必要性がなくたったものの、概ね6か月以内に再度保護が必要になる状態になることが予測される場合は生活保護が停止され、概ね6か月を超えて保護を必要としない状態が継続すると見込まれる場合は生活保護が廃止されます。
⑶ 病気のため就労困難で、かつ扶養義務者からの扶養も受けていない生活保護受給者の方が、例えば相続により預貯金30万円を相続した場合、生活保護はいったん停止されることになるでしょう。
また、相続により預貯金300万円を相続した場合は、6か月を超えて保護を必要としない状態が継続することが見込まれますので、保護は廃止されることになります(もちろん、預貯金を使い切り、再度保護が必要な状態になった場合は、生活保護を受給することが可能になります)。
3 相続放棄をしたことによる影響
生活保護を受給している方が相続人となった場合、単純承認をしてそのまま相続することも可能ですし、相続放棄をすることも可能です。
ただ、相続放棄をしたことにより、生活保護が打ち切られてしまう可能性はあります。
例えば、相続放棄をしなければ300万円の預貯金を相続できたという場合、それでも相続放棄をしてしまった生活保護受給者の方は、「その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用」しなかったと認められ、生活保護を受給するための要件を欠くことになり生活保護が打ち切られてしまう可能性があります。
他方、被相続人に借金が多く遺産全体でマイナスになる場合や、マイナスにならなくても遺産が換価困難な過疎地の不動産だけというような場合は、相続放棄をしても、「その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用」しなかったとは言えませんので、生活保護が打ち切られることはありません。
相続放棄を行う際は、担当のケースワーカーや弁護士等の専門家に事前に相談するとよいでしょう。